2026.10.28 「このお店、何屋さん?」看板のモチーフで伝わり方が変わることを学びました|デザイン事件簿 第2回レポート

宝塚市教育委員会が主催し、サインズスクエアが企画・運営を担当している中学生・高校生向けのメタバース授業「デザイン事件簿」の第2回を、2026年10月22日(木)に開催しました。今回のテーマは「モチーフ」です。看板に何を描くかによって、そのお店が何屋さんで、どんな人に来てほしいのかまで伝わり方が変わることを、実際の事例やクイズを通して学び、最後はピアノ教室の看板を自分で考えるワークに取り組みました。当日の様子をご紹介します。

メタバース空間「舞台裏工房」に参加者のアバターが集まっている様子
メタバース空間「舞台裏工房」に参加者のアバターが集まっている様子

デザイン事件簿とは

デザイン事件簿は、宝塚市のメタバース空間「宝塚e-Park ナゾときタウン」で、毎月第2・第4木曜日の夕方に開催している中学生・高校生向けの授業です。街の中にある「なぜ、このお店にはお客さんが入らないのか」といった“デザインの謎”を取り上げ、参加者が自分の視点でその原因と解決策を考えていきます。自宅からパソコンやタブレットで参加し、アバターで授業を受けるので顔を出す必要はありません。発言はチャットやリアクションボタンでもできます。デザインを学んだことがなくても、興味があれば参加できます。

操作のおさらいから、リラックスしてスタート

授業の前半は、アシスタントのスタッフと一緒にメタバースの操作をおさらいするところから始まります。マイクのオン・オフや、声が届く範囲、チャットの送り方、アバターの動かし方を確認したあと、実際に手を動かして練習しました。チャットで「好きな動物は?」という質問に答えたり、手を挙げるボタンを押したり、好きな食べ物を絵文字で送り合ったりするうちに、トウモロコシやカニ、ハンバーガーなどの絵文字が画面に並び、和やかな雰囲気の中で授業に入ることができました。

操作説明のスライド、または絵文字リアクションが並んでいる様子
操作説明のスライド、または絵文字リアクションが並んでいる様子

前回描いたパン屋さんの看板が、本物の看板デザインになりました

第1回では、「デザインは問題を解決する手段」というテーマのもと、自転車屋さんがパン屋さんに変わったときに、建物の上の大きな看板に何を載せるかを考えるワークを行いました。今回の授業の冒頭では、そのとき参加者が描いてくれた絵を、サインズスクエアのデザイナーが実際の看板デザインに仕上げて紹介しました。

パンを挟むトングを描いてひと目でパン屋さんだとわかるようにしたもの、「白いお皿プレゼント」という言葉を添えて思わず入りたくなるようにしたもの、「焼きたてパン」と書いておいしそうな印象を伝えたものなど、それぞれの工夫がそのまま看板の形になっています。中でも講師が注目したのは、お店の名前の文字をパンで描き、さらにパンの原材料である小麦をあしらった作品でした。小麦を添えることで、素材にこだわって一からパンを作っているお店だということまで伝えられている点が、今回のテーマを先取りしたすばらしいアイデアとして紹介されました。

参加者の手描きの絵と、看板に仕上げたデザインの比較(2〜3組)
参加者の手描きの絵と、看板に仕上げたデザインの比較(2〜3組)

モチーフとは「何かを伝えるための記号となる素材」

今回の授業では、モチーフを「何かを伝えるための記号となる素材」と定義して話を進めました。パン屋さんであることを伝えるならパンを描くのがいちばんわかりやすい方法ですが、ほかのモチーフを選ぶと、パン屋さんであることに加えて別のメッセージも伝えられるようになります。

講師はその例として、石窯の絵に「石窯で焼きたてパン」という言葉を添えた看板と、人の良さそうなパン職人のイラストを描いた看板の2つを紹介しました。石窯からはこだわった焼き方が、職人のイラストからは作り手の人柄や本場の雰囲気が伝わり、同じパン屋さんでも看板の印象が大きく変わります。

石窯のモチーフの看板と、パン職人のモチーフの看板のスライド
石窯のモチーフの看板と、パン職人のモチーフの看板のスライド

続いて、パンの写真を使った4軒のパン屋さんが横に並んでいる画像が映し出されました。文字の大きさや書体はそれぞれ違うのに、並べてみると違いがほとんどわかりません。そこに石窯の看板のお店を入れると、そのお店だけが他とは違うことがすぐに伝わり、参加者からもリアクションが次々と届きました。お店が人気になるためには、他のお店と何が違うのかを考え、それをデザインの力でわかりやすく伝えることが大切だというお話がありました。

4軒のパン屋さんの比較スライド(石窯の看板を入れる前と後)
4軒のパン屋さんの比較スライド(石窯の看板を入れる前と後)

事件ファイル「お客さんが来ない“サロン宝塚”」

今回の“事件”は、外観もおしゃれで入口のドアや植栽にもこだわっているのに、なぜかお客さんが来ない「サロン宝塚」というお店です。まず「このお店は何屋さんだと思いますか?」という問いかけに、チャットでは「美容室」「ネイルサロン」と答えが分かれました。実はこの、何屋さんかがひと目でわからないことこそが、お客さんが来ない原因です。看板にネイルの写真が入ればネイルサロンに、犬の写真が入ればペットのトリミングサロンに見えてしまうように、何屋さんかわからないお店には、間違えるのが怖くてなかなか入れません。

「サロン宝塚」の外観と、看板の中身を変えたスライド(ネイルサロン/トリミングサロン)
「サロン宝塚」の外観と、看板の中身を変えたスライド(ネイルサロン/トリミングサロン)

このお店は美容室だったという設定で、次は「どんなモチーフを載せれば美容室だとわかるか」を考えました。参加者からは「はさみ」「ヘアデザイン(髪型の写真)」「店内の写真」といったアイデアがチャットで寄せられ、講師も「的確なモチーフ選びです」と応えていました。

ここからが今回のポイントです。看板に若い女性のヘアスタイルの写真を入れると、いかにも美容室らしい雰囲気になります。ところが、同じ場所を若い男性の写真に替えると男性向けのお店に見え、年配の男性の写真に替えると、若い女性はまず入らないお店に見えてしまいます。実はこのとき、講師は看板以外にもう一つだけ画面に変更を加えていました。「何が変わったかわかった人はすごい」という問いかけに、参加者の一人がチャットで見事に正解を言い当てました。答えは、入口の横に置いた、床屋さんでおなじみの回転するサインポールです。これが加わることで、おじさん向けの散髪屋さんの印象がさらに強まっていました。

看板の写真を「女性モデル→男性モデル→年配の男性モデル+サインポール」と変えていくスライド
看板の写真を「女性モデル→男性モデル→年配の男性モデル+サインポール」と変えていくスライド

一方で、はさみのモチーフであれば年齢や性別を決めつけずに美容室だと伝えられますし、黄色いポップなイラストにすれば子どもも歓迎していることが伝わります。いろいろな世代の人が写った写真を使えば、誰でも来てよいお店だというメッセージになります。モチーフを選ぶときには、誰に何を伝えたいのかという目的をはっきりさせることが大切だということを、この事件を通して学びました。

はさみのイラストの看板/いろいろな世代の人が写った看板のスライド
はさみのイラストの看板/いろいろな世代の人が写った看板のスライド

実際にあった事例「英語塾の看板を変えたら、生徒が増えた」

後半では、講師が以前に実際に相談を受けた英語塾の事例を紹介しました。ビルの2階にある小学生向けの英語塾でしたが、看板が目立たず、何の教室なのかも伝わりにくい状態でした。そこで、子どもたちが楽しく通える英語塾であることが伝わるよう、ビルの中央の看板を緑色に変え、フクロウのモチーフを入れたデザインにしました。その結果、塾に通いたいという小学生がどんどん増え、塾の先生からも感謝の言葉をいただいたそうです。デザインを変えることで、本当にお店の困りごとが解決できることを、実例で知ってもらう時間になりました。

英語塾の看板のビフォー・アフター
英語塾の看板のビフォー・アフター

練習問題「男の子向け・女の子向けのスクールにするなら?」

ワークの前に、同じ看板を使って練習問題に取り組みました。この教室が男の子を対象にしたスクールになるとしたら、どんなモチーフが考えられるでしょうか。チャットでは「戦隊ヒーローのようなキャラクター」「男の子に人気のアニメのキャラクター」といったアイデアが挙がりました。講師が考えた例は、ロボットのモチーフに青い看板を組み合わせたプログラミングスクールです。

続いて女の子向けのスクールについては、「赤やピンクの色」「花や動物などのかわいいもの」といったアイデアが寄せられました。講師の例は、絵の具や筆のモチーフにピンクの色を合わせ、花もあしらったお絵描き教室の看板です。

ロボットスクールの看板と、お絵描き教室の看板のスライド
ロボットスクールの看板と、お絵描き教室の看板のスライド

もちろんロボットが好きな女の子もいますが、看板はその地域に住むたくさんの人が目にするものです。10人のうち1人がそう思うものより、7人、8人が同じように感じるものを選ぶ方が、デザインとしては成功しやすくなります。お店の人の「もっとたくさんの人に来てほしい」という願いをかなえるには、多くの人に共通するイメージを捉えることが大切だというお話がありました。

ワーク「ピアノ教室の看板を考えよう」

最後のワークでは、先ほどの英語塾の看板の場所がピアノ教室に変わったという設定で、その看板に何を描くかを考えました。講師からは、これはデザイナーが実際の仕事でお店の人から相談されるのと同じくらい本格的な問題だという話がありました。

ピアノ教室の看板を考えるワークシートと、画像検索の参考画面
ワークのスライドとワークシート

ピアノ教室であること以外は何も決まっていないので、どんな人に来てほしい教室なのかは参加者が自由に決めます。中学生向けでも、大人向けでも、お年寄り向けでもかまいません。大切なのは、狙った相手に合わせて、どんなモチーフ、色、文字、雰囲気を選んだのかを考えることです。ピアノそのものを描かずにピアノ教室だと伝える方法を考えるのもおすすめとして紹介されました。スマートフォンで画像を検索して参考にしながら描いてもよく、絵の上手さは問いません。

描き方に迷っている人のために、アシスタントを務めたプロのデザイナーが描いた参考例も紹介しました。ピアノの鍵盤の絵に「ピアノ教室」という文字を添え、「体験レッスン」「幼児から大人まで」「初めての方も大歓迎」といった言葉を加えた看板です。ピアノの絵だけではピアノの販売店にも見えてしまうため、「教室」であることを言葉で補っている点や、文字とイラストの大きさのバランスも見どころとして解説がありました。

アシスタントのデザイナーによる参考作品
アシスタントのデザイナーによる参考作品

参加者のアイデアから

ワークの時間には、チャットにアイデアや作品の写真が届きました。30〜40代に向けて、その世代になじみのあるヒット曲をモチーフにするというアイデアには、講師も「その曲を知っている人にはとても響く」と感心していました。

鍵盤の上に音符が流れるように描かれた作品は、ピアノ教室の文字が小さくても全体を見ただけで教室だとわかる構成になっていました。音符の流れから楽しさが伝わり、「何歳からでもOK」という言葉と合わせて、子どもから年配の方まで気軽に通えそうな教室に見えると講評がありました。

参加者が描いたピアノ教室の看板作品2点
参加者の作品

もう一つは、ピアノの鍵盤を角度をつけて看板いっぱいに描いた作品です。看板の面の使い方やバランス、電話番号の配置にセンスが感じられ、シンプルな分だけ遠くからでもひと目でわかる、効果の出る看板だと紹介されました。「〇〇ピアノ教室」の部分に覚えてもらいやすい名前を入れれば、他の教室との違いも出せるというアドバイスもありました。

正解はひとつではなく、何を考えてデザインしたかが大切

授業の中で、講師の西村は参加者に次のように伝えました。

「デザインに正解はありません。大事なのは、何を考えてデザインするかということです。どんな人に来てほしいピアノ教室なのか、そのためにどんなモチーフを選ぶのかを考えることが、デザインの仕事そのものです。これができたら、もうデザイナーと同じことができていると思います。」

時間内に描き終わらなかった参加者も、後から作品を送ることができます。送ってもらった作品は、今回のパン屋さんの看板と同じようにサインズスクエアで看板のデザインに仕上げ、次回以降の授業で紹介する予定です。

次回のお知らせ

次回のデザイン事件簿は、2026年11月12日(木)16:30〜17:30に開催します。街にひそむ新しい“デザインの謎”を用意して、みなさんの参加をお待ちしています。初めての方も、最初に操作のおさらいをしてから授業に入りますので、安心してご参加ください。

  • 対象:宝塚市にお住まいの中学生・高校生(デザイン初心者でも大丈夫です)
  • 時間:16:30〜17:30
  • 今後の開催日:2026年11月12日・26日、12月10日・24日、2027年1月14日・28日、2月4日・18日、3月11日・25日(いずれも木曜日)
  • 会場:メタバース空間「宝塚e-Park ナゾときタウン」(ご自宅などからオンラインで参加)

参加方法

  • 宝塚市の申込ページからお申し込みください。
  • 入室用のURLがメールで届きます。
  • 当日、届いたURLをクリックして入室してください。

詳しくは、宝塚市のホームページ「宝塚e-Park ナゾときタウン」をご覧ください。

参加に関するお問い合わせ:宝塚市教育委員会 学校教育部 教育支援課(TEL:0797-87-1718)

この取り組みについて

「デザイン事件簿」は、宝塚市教育委員会が実施するメタバース事業「宝塚e-Park ナゾときタウン」の中学生・高校生向けイベントとして、2026年10月から2027年3月まで開催しています。サインズスクエアが企画・運営を担当し、授業では実際に街で起きている問題をデザインでどう解決するかを考え、参加者が自分のアイデアで社会の困りごとを解決できると感じられる時間を大切にしています。同じ事業の中で、小学生向けの「デザイン探偵団」も開催しています。

サインズスクエアは大阪を拠点に、店舗やクリニックの外観デザイン・看板制作を手がけるデザイン会社です。「誰もが活躍できる社会環境の創造」をビジョンに掲げ、デザインの力を子どもたちの学びにも広げていきたいと考えています。

取材・お問い合わせ:株式会社サインズスクエア 

担当:矢尾(やお)/デザイン部 TEL:06-6534-0555